問題点の整理

今回(2018年7月7日)のダム放流の問題点は、大きく分けると2つあります。

 

 1.ダムの放流操作が適正だったのか
  一気に大量の水を放流するのではなく、事前にある程度の水を流して、満水になるのを防いでいれば、一気に大量の

 ミスを放流することを防げて、これだけの被害は起こらなかったといえます。事前にある程度の水を流すことができ

 なかったのでしょうか。

 

  2.流域住民への危険性の周知

  自分の住居が浸水被害を受けることについて、事前に連絡がなかったために、避難をすることができなくて、尊い命

 や貴重な財産が失われました。どうして、もっと早く浸水被害について具体的に知らせることをしなかったのでしょう

 か。

 

 

1.ダム放流操作が適正だったのか

  

 調査してみると、今回の鹿野川ダムのダム放流は、操作規則に違反しているようにみえます。

鹿野川ダムでは毎秒850立方メートルの放流がかなり遅れています。

 

鹿野川ダムの場合、ダム操作規則15条2項で84メートルの水位になれば毎秒850立方メートルまでの放流ができました。しかし、水位が84メートルになったのが6時32分なのに、ダム事務所が毎秒850立方メートルを放流し始めたのは7時04分以降です。30分以上遅れています。

 

また、ダム操作規則15条3項では、84メートルの水位になって毎秒850立方メートルを放流した後には、ゲートの開度をそのまま保つことになっています。ゲートの開度をそのまま保てば、流入量が多くなるにしたがって放流量も増えることになります。6時32分の流入量が毎秒1,520立方メートルであり、その後7時04分に毎秒2,000立方メートル、7時41分に毎秒3,000利立方メートルになっているので、流入量が増えるのに応じて放流量は増えて、早い段階で毎秒1,500トンや毎秒2,000トンを放流できたことになります。

 

 操作規則に基づいて、毎秒850立方メートルを流し、その後、ゲートの開度を維持していれば、短時間で水位が89メートルまで上昇することはなく、毎秒3700立方メートルの放流をすることは避けれたはずです。

 

◆鹿野川ダムでは予備放流を十分にしていない 

 

 鹿野川ダムの場合、予備放流水位を超えれば毎秒600トンまでの放流ができました。ダム事務所は、今回の洪水対策として予備放流水位を3.6メートル下げて、77.45メートルの水位にしています。予備放流水位を超えれば、ダム操作規則14条では毎秒600立方メートルの放流ができるので、水位が77.45メートルを超えた時点で、ゲートの開度を広げて、毎秒600立方メートルの放流をすべきでした。

 

  しかし、ダム事務所は毎秒600立方メートルを放流していません。水位が77,45メートルになったのは7月6日午前3時00分ですが、毎秒600立方メートルに達したのは翌日の午前6時30分です。何と27時間半後ということになり、何のために予備放流水位を下げたのか、理解できません。

 

◆操作規則の弾力的運用も可能

 

 野村ダム事務所や鹿野川ダム事務所は、操作規則に基づいて行ったので責任はないといいます。しかし、ダム事務所が言うように、操作規則に基づいて行うしかなかったのでしょうか。 

 

気象庁が異例の記者会見をするような状況であるから、操作規則をそのまま運用したのでは対応できないのは分かっていたはずです。操作規則をそのまま運用したのでは対応できず、多大な損害が生じるという場合には、操作規則を弾力的に運用して、早く流す手段をとってもおかしくありません。

 

平成16年にも大洲地区では大きな浸水被害が出ておりますので、操作規則をそのまま運用したのでは多大な損害が生じることはわかっていたはずです。

 

多大な被害を回避するために、弾力的な運用をすべきではなかったのでしょうか。 また、操作規則では対応できない場合の対処について、国土交通省が定めていないかった(被害が出ることを放置していた)というのは怠慢であるといえます。

 上記の表をみれば、最大流入量をほとんどカットできていません。少なくとも、4時間程度前には、雨雲の動きなどから最大流入量の予想ができます。

 

 野村ダムの場合、1,900立方メートル流入することを考えて5時から800立方メートルぐらいを流していれば、800立方メートルぐらいはカットでき、最大放流を1,000立方メートルぐらいに抑えることができたはずです。

 

 

 鹿野川ダムの場合も、2時間ぐらい前の5時ぐらいから1,000トンぐらいを流していれば、毎秒2,000トン以下にできたはずです。

 

◆操作規則に定めていないこともしている 

 

本当に操作規則に定めていないことはできないのでしょうか。そうではありません。今回、野村ダムでは治水容量を増やしたり、鹿野川ダムでは予備放流水位を下げたりしています。このようなことは操作規則に記載がありません。  

 

 今回ダム事務所は、操作規則を弾力的に運用していたと言えます。そうであれば、操作規則の弾力的運用が、できなかったとは言えないのではないでしょうか。

 

◆操作規則は誰が作ったのか

  

 操作規則は、国土交通省が作ったものです。大規模洪水に対応できないような操作規則を作ったのは、国土交通省に責任です。大規模洪水に対応できないことを承知していながら、それを放置していたのであれば、その責任は重大です。

 

 平成7年にも、平成16年にも大洪水が大洲市では起こっています。それにもかかわらず、国土交通省は放置をしてきたのです。ひどい話ではないでしょうか。

 

◆中規模洪水と大洪水とは択一関係ではない

 

 ダム側は、中小規模洪水に対応する操作規則だったので、大規模洪水である今回の洪水には対応できなくても仕方がないのだと言います。しかし、通常のダム操作規則では、中規模にも大洪水にも対応できるように操作規則を定めています。どちらかしかできないというダム側の説明はおかしいのです。

 

 国土交通省のホームページや出版物をみても、「操作規則を作成する場合に、中小規模洪水と大規模洪水のどちらかを選択するしかない。」というような記載はありません。このような中規模洪水と大洪水対応のどちらしかないということを言っているのは、四国地方整備局だけのようです。四国地方整備局が自分の立場を有利にするために(操作の責任を逃れるために)述べているように見えます。

 

 ◆野村ダムにおける南予水道企業団の承認

 

 ダム側は、治水容量を増やすために南予水道企業団の承諾を得て、治水容量を250万トン増やしたと説明しています。このように南予水道企業団の承諾を得て容量を変更することができるのであれば、事前の放流についても、南予水道企業団の承諾を得て流すことができたはずです。

 

 そうすれば、一気に毎秒1,900トンも流す必要はなかったのです。どうして、事前に多く予備放流することについて、南予水道企業団に承諾を求めなかったのでしょうか。

 

2.流域住民への危険性の周知

 

 ダム事務所は、関係機関に放流を知らせるだけではなく、操作規則・細則において、流域住民に直接、危険性を知らせる義務を負っています。

 

これは操作規則に記載されています。関係機関である市に伝えるだけではなく,流域住民にも伝える必要があります。しかし、ダム事務所は自ら流域住民に危険性を周知することをしていません。また、「放流します。」「川に近づかないでください。」「水位が上がります。」と言うだけの周知では不十分です。浸水が予想される範囲を示して危険性を伝える必要があります。

 

 操作規則の「ただし書き放流」の細則において、異常放流の場合に危険性があることから、一般住民への周知を重ねて規定しています。

 

 今回のダム事務所の流域住民への伝え方は下記の資料のとおりであるが、避難しなければならないほどの危険な状態であることを伝えておらず、伝え方が不十分であることは明らかです。

警報車及び警報所スピーカーからの放送文(鹿野川ダム)

 

日付

時間

音声内容

73

10:30

鹿野川ダムよりお知らせします。

ダムは9時30分より放流を開始します。

最大放流量は毎秒約600トンの予定です。

川の水が増えますので,十分注意してください。

もう一度繰り返します。

77

5:30

鹿野川ダムよりお知らせします。

ダムは現在,毎秒約600トンを放流中ですが,さらに放流量を増やします。

川の水が増えますので,厳重に警戒してください。

もう一度繰り返します。

77

6:18

鹿野川ダムよりお知らせします。

ダムは現在洪水調節中ですが,ダムの流入量は今後も一層増加することが予想されるため,放流量を急激に増やします。

川の水が急激に増えますので,厳重に警戒してください。

もう一度繰り返します。

 

 

警報車及び警報所スピーカーからの放送文(野村ダム)

 

日付

時間

音声内容

73

9:00

こちらは野村ダム管理所です。

まもなく,野村ダムからの放流量が増加します。

危険ですから河原におりないで下さい。

*2回繰り返し

77

5:15

こちらは野村ダム管理所です。

現在,洪水調節中をおこなっておりますが,ダムへの流入量は今後も一層増加することが予想されますので緊急のダム操作に移行する予定です。下流河川の水位が急激に上昇するおそれがありますので,厳重に警戒してください。


*2回繰り返し

 

◆今になって「切迫感」の試行

 

 今回ダム事務所は今までの放流警報の手法を変更するために「切迫感が伝わる方法」を試行するようです。大洲での説明会では、国土交通省の責任者が適切な周知をしていなかったと謝罪しました。

 

 

しかし、異常洪水時操作であるため、危険性の高い放流であることはすでに分かっていた可能性が高く、「切迫感」を持った警報を行うことは今更言うまでもないことです。

 

 それを、今のタイミングで言い出すのは、異常洪水放流の人身に対する危険性についての認識が薄いからだと推察されます。あまりにもお粗末な治水行政と言えるのではないでしょうか。

 

◆国土交通省内での答申

  

 平成27年12月の社会資本整備委員会(国土交通省内の委員会)では、「速やかに実施すべき対策として、洪水予報文の改良『切迫度が伝わるよう、洪水予報文を改良するとともに、確実に情報が伝わるように伝達手法を改善すること』が答申されています。この答申を無視していたと言えます。

 

◆大洲市のまずい対応

 

 今までに経験したことのないくらいの放流があることは、ダム事務所から伝えられている。しかし、大洲市は、伝えられた情報に迅速に対応していません。伝えられた情報を理解していない、というひどい状態でした。

 

ダム事務所からの連絡の内容は以下のとおりです。

 

鹿野川ダム放流や大洲市避難指示の主な経緯

(国土交通省資料や取材を基に作成)

 

 

7日

午前510

ホットライン(山鳥坂ダム工事事務所→市)

洪水調整中,最大毎秒1800㌧の流入が予測され,850㌧に増量予定。容量を使い切った時に実施する「ただし書き操作(異常洪水時防災操作)」の可能性あり。

午前620

ホットライン(山鳥坂ダム工事事務所→市)

第1報後,多くの降雨。2004,05年を上回る過去最大の流入量・放流量になる見込み。850㌧に上げ始めた後,そのまま7時半ごろ「ただし書き操作」に入る見込み。

午前650

ホットライン(山鳥坂ダム工事事務所→市)

野村ダム2000㌧,鹿野川ダム6000㌧の放流見込み。現在,通行可能となっている道路も追って冠水が想定される。

午前658

メール(大洲河川国道事務所→市=午前7時7分受信)

大洲第二水位観測所の水位が午前10時半に8.15㍍に達するとの予測。 

午前730

大洲市が市内全域に避難指示

午前735

異常洪水時防災操作開始

午前842

3800㌧流入(管理開始以降最大)

午前843

3742㌧放流(管理開始以降最大)

午後020

大洲市第二水位観測所が観測史上最大の8.11㍍を記録

午後042

異常洪水時防災操作終了

 新聞報道によると、6時50分のホットラインでの連絡について、市長はじめ大洲市の幹部11名は首をかしげたと言います。そして、避難指示を出しませんでした。6時50分には、6000トンの放流という連絡があり、道路の冠水も指摘されています。

 

 二宮市長は、説明会で、放流量6000トンは予想に過ぎないから避難指示を出さなかったと発言しました。この回答には驚きました。実際に放流があってからでは遅いわけであり、ダム事務所が雨量や貯水量を根拠に予想をしているのだから、「予想に過ぎないから対応しない。」というのはあまりにもいい加減です。

 

 なお、説明会において、二宮市長から、今回の避難指示が遅かったことについて謝罪の言葉はありませんでした。

 

 幹部11名が「首をかしげる。」のも理解できませんが、鹿野川ダムからの連絡の内容が分からないのであれば、なぜダム事務所に聞かなかったのでしょうか。

 

 大洲市は水位で避難指示を出すかどうかを判断したと言いますが、水位で判断したのでは、洪水が目の前に来てから避難を指示することになり、不十分であることは素人でも分かります。

 

 大洲第2水位観測所の水位を基準にしたとのことですが、大洲第2水位観測所は肱川橋の5メートル下流にあります。この肱川橋の水位で危険性を判断するということは、その上流(肱川町、大川地区、菅田地区)に住む人の危険性については、おろそかになるのではないでしょうか。

 

 肱川橋の水位で危険だと判断したときには、すでに20キロ上流の肱川町は濁流に押し流された後になります。

 

 6時50分に避難指示を出していれば、人命が失われることはなく、助かった人も多いのではないでしょうか。

 

◆新たに出てきた問題

 

 その1 放流データの信ぴょう性

 

 ダム事務所は、リアルタイムダム諸量一覧表を公表し、放流量、流入量、貯水量を公開しています。しかし、すべての場合に流入量よりも放流量が少ない。それにもかかわらずダムの貯水量が減っています。明らかにおかしいのです。

 

 国土交通省は,このデータがおかしいことを認めています。国会議員にも確認をしてもらいました。しかし、その原因を究明しようとしません。誤ったデータによって放流の問題点を検証しても、十分な検証にはなりません。

 

 私たちは、誤ったデータを見直し、原因を究明して、実のある検証をするように要請しました。

 

 ダム操作細則1条では流入量の計算式が出ているが、これにも明らかに反しています。計算式からは、ダムの水位が下がっているのに流入量よりも放流量の方が少ないという結果は出ないはずです。ページ下部、資料コーナーの資料1,2をご確認下さい。

  

 その2 平成8年の操作規則の変更について

 

 ダム事務所は、流域住民から「大規模洪水ではなく中・小規模洪水対応に変更」と要請があった、と説明しています。しかし、平成7年には、大洪水で大洲の商業地域が甚大な損害を受けているので、住民から大規模洪水の変更を求める意見が出ることは考えにくいのです。国土交通省の肝いりで行われたと言えます。

 

 特に野村町の場合には、毎秒500トンを流しても被害が出ることはなく、操作規則を変更するメリットはほとんどなかったはずです。

放流量の記録

貯水量が減っているのに、流入量よりも放流量のほうが少ないことになっています。出している量が多くないと貯水量は増えるはずですから、ダム事務所のデータは信ぴょう性がありません。

 

 鹿野川ダムに関して、重要な時間帯についての資料がありません。